「気が散りやすい」「衝動的に行動してしまう」「集中が続かない」――
こうした悩みを抱える人の中には、ADHD(注意欠如・多動症)の特性が関係している場合があります。ADHDは発達特性の一つであり、子どもから大人まで幅広く見られるものです。
ADHDへのアプローチとしてよく知られているのは薬物療法ですが、それだけが唯一の手段ではありません。
近年、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)がADHDの特性に有効であることが注目されています。
この記事では、ADHDの特性と上手に付き合うための「認知行動療法(CBT)」の考え方や、日常で試せる工夫について、一緒にひも解いていきましょう。
目次
ADHDとは?その特徴と日常生活で起こりやすい困難
ADHD(注意欠如・多動症)は、脳の発達や働き方に特徴がある発達特性です。
単なる性格や努力不足ではなく、神経伝達物質の働きや脳の情報処理の仕方が関係していることが研究でわかっています。
ここではADHDの主な特徴と、それによって起こりやすい日常の困難を整理してみましょう。
1. 不注意(集中が続きにくい、うっかりミスが多い)
ADHDの人は、必要な情報に集中し続けることが難しい傾向があります。
- 授業や会議中に話が頭に入らない
- 提出物や約束を忘れてしまう
- メールの返信を後回しにしてそのまま忘れる
- 細かい作業で同じミスを何度もしてしまう
ポイント
興味のあることには集中しすぎる「過集中」が起こる場合もあり、時間を忘れて没頭してしまうこともあります。
2. 多動性(落ち着いてじっとしていられない)
体や頭が常に動いていたい感覚があり、じっとしている場面が苦手です。
- 会議中にペンをいじったり、貧乏ゆすりをしてしまう
- 話が止まらず一方的にしゃべり続ける
- 待ち時間や渋滞が苦痛で落ち着かない
子どもに多いイメージですが、大人のADHDでも「心の中が常にせわしない」感覚として残ることがあります。
3. 衝動性(考える前に行動してしまう)
思いついたことをすぐ口に出したり、行動に移してしまいます。
- 人の話を最後まで聞かずに口をはさんでしまう
- 買い物で衝動買いが多い
- イライラした瞬間に強い言葉を言ってしまい、人間関係がこじれる
衝動的な行動は本人も後悔することが多く、自己嫌悪につながりやすい特徴です。
日常生活で起こりやすい困難
これらの特性は、学校生活や仕事、家庭生活のさまざまな場面で影響します。
- 学校や仕事
提出期限を守れない、会議や授業に集中できない、段取りが苦手で作業が遅れる - 人間関係
話を遮ってしまう、感情をコントロールできず衝突する、約束を忘れて信頼を失う - 生活全般
部屋が片付かない、家計管理が苦手、時間の感覚がずれて遅刻しやすい
これらは本人の怠けや意思の弱さではなく、脳の特性による「抜けやすさ」「忘れやすさ」「止まりにくさ」から起こるものです。
ADHDは「困りごとが起きやすい特性」
ADHDの特性自体は決して悪いものではありません。
好奇心が旺盛で、行動力があり、アイデアが豊富という強みにつながる面もあります。
しかし、環境や周囲の理解がないと「失敗しやすい人」「だらしない人」と見られ、自己肯定感が下がりやすくなります。
ここがポイント
ADHDは「直さなければいけない欠点」ではなく、自分らしい「特性」のひとつ。その特性を活かしながら、もっと自分らしく、心地よく暮らすための工夫を考えていきましょう。
そのために役立つ方法のひとつが、これから紹介する認知行動療法(CBT)です。
認知行動療法(CBT)とは?
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は、「考え方(認知)」と「行動」の関係に注目して心や生活の困りごとを改善する心理療法です。
- 「自分はダメだ」「どうせ失敗する」という考え方(認知)は、不安や落ち込みを強め、やる気をなくします
- やる気がなくなると行動が減り、ますます失敗やトラブルが増え、さらに落ち込む……という悪循環に陥ります
CBTはこの悪循環を断ち切るために、
- 考え方を現実的・建設的な方向に修正する
- 行動を少しずつ変えて、成功体験を積み重ねる
というプロセスを通じて、気持ちや生活を楽にしていきます。
うつ病や不安障害の治療で最も多く使われている心理療法のひとつで、近年はADHDの治療・支援にも効果があることが研究で確認されています。
なぜADHDにCBTが効果的なのか?
ADHDの人は、行動上の困りごと(忘れ物、先延ばし、衝動行動など)だけでなく、繰り返し失敗を経験することで自己否定的な考え方(認知のゆがみ)を持ちやすくなります。
よくある思考と影響
- 「また忘れた。私はどうせダメな人間だ」 → 自信喪失、チャレンジを避ける
- 「頑張ってもどうせ続かない」 → やる気が起きず、さらに失敗が増える
- 「みんなに迷惑をかけている」 → 人との関わりを避ける
こうした考え方は、ADHDの本来の特性よりも生活のしづらさを悪化させる要因になります。
CBTがADHDに対してできること
CBTでは、次のようなポイントでADHDの困りごとをサポートします。
1. 思考の整理(認知の見直し)
- 「私は怠け者だからできない」→「集中が続きにくい特性があるから、やり方を工夫しよう」と捉え直す
- 「完璧にできなきゃ意味がない」→「今日は半分できただけでも進歩」と考え方を柔軟にする
ポイント
ネガティブ思考を「現実的でやさしい言葉」に言い換えるだけで、自己否定のループから抜けやすくなります。
2. 行動の工夫(行動実験・スモールステップ)
- タスクを細かく分けて一つずつクリアする
- タイマーを使って5分だけ作業する「ポモドーロ法」を試す
- 忘れ物防止のチェックリストを作る
こうした工夫は「行動実験」と呼ばれ、実際に試して効果を確かめながら、自分に合う方法を見つけていきます。
3. 感情のコントロール
- 衝動的に怒りやすいときは、深呼吸や「一度席を離れる」などのクールダウン法を練習
- 落ち込みや不安が強いときは、気分が少し上がる行動(散歩、音楽、友人との会話)を計画的に取り入れる
感情を抑え込むのではなく、「扱いやすい状態」にしていくのがCBTの特徴です。
4. 自己効力感(できる感覚)を高める
- 毎日「できたこと」を1つ記録する
- 小さな達成を積み重ねて「やればできる」という感覚を取り戻す
ADHDの人は失敗経験が多く、自己肯定感が下がりがちです。
CBTは「行動できた→気分が上がる→もっとやろう」という好循環を作り、長期的に生活の質を高めます。
ADHDとCBTは相性が良い
ADHDの困りごとは、思考・感情・行動の悪循環が絡み合って起こることが多いため、考え方と行動の両方に働きかけるCBTは非常に相性の良い方法です。
薬物療法と並行して行うことで、より効果的なサポートが期待できます。
ポイント
- CBTは「考え方の癖を直す練習」と「行動の実験」を通じて日常生活を改善
- 自分を責めるクセを減らし、やる気を引き出す
- タスク管理や感情コントロールも学べるので、ADHDの実生活に直結する効果がある
ADHDに効くCBTの進め方
ADHDの困りごとは「忘れっぽい」「先延ばしする」など行動面だけでなく、「また失敗した」「自分はダメだ」という考え方のクセとも深く関係しています。
認知行動療法(CBT)では、この 「考え方」と「行動」の両方に働きかけることで、少しずつ生活を整えていきます。
ここからは、日常で取り入れやすい5つのステップを詳しく紹介します。
1. 課題を明確にする(困りごとの整理)
まずは、「どんなときに困っているか」をできるだけ具体的に言葉にします。
- 子どもなら:「宿題を始められない」「忘れ物を毎日する」
- 大人なら:「仕事の締め切りを守れない」「会議で集中が切れる」
- 家庭では:「イライラして家族に強く当たってしまう」
ポイント
「なんとなくうまくいかない」ではなく、
「毎週月曜の会議で集中が切れてしまう」など、
具体的な場面・行動を特定することが最初の一歩です。
2. 思考のクセに気づく(認知の見直し)
ADHDの特性があると、うっかりミスや遅刻などが重なり「またダメだった」「どうせできない」というネガティブな考え(自動思考)が、反射的に浮かびやすくなります。
CBTでは、その「頭に浮かんだ言葉」をあえて紙やスマホに書き出して、外から眺めてみることがポイントです。
書き出しの例
- 【頭に浮かんだ考え】「自分は何をやっても続かない」
- 【見直しするための質問】「本当に一度も成功していない?」
- 【現実的な考え】「昨日はちゃんと時間通りに提出できた。できる時もある」
ポイント
ネガティブな思考を「消そう」とするのではなく、 少しだけバランスの取れた現実的な言葉に変えることを意識します。
頭の中だけで考えると、どうしてもネガティブな感情に引きずられてしまいます。ですが、一度文章にして見てみることで、「あ、これはただの思い込みかも?」と気づくきっかけが生まれます。
3. 行動計画を立てる(スモールステップ)
ADHDの行動改善では、「小さく始めること」が成功のコツです。
- 宿題は「1ページだけ」「10分だけ」からスタート
- 大きな仕事は「3つの小タスク」に分解
- 忘れ物防止のために「夜寝る前に持ち物をそろえる」習慣を作る
ポイント
小さな目標を達成すると、脳内でドーパミンが分泌され、やる気が続きやすくなります。
「完璧」を目指すより、「昨日より1歩進んだ」を目指しましょう。
4. 衝動や感情をコントロールする練習
ADHDの大きな困りごとの一つが「感情の爆発」や「衝動行動」です。
CBTでは、感情がピークになる前に落ち着く方法を練習します。
- 深呼吸を3回する
- 10秒数えてから発言する
- 一度席を離れて気持ちをクールダウン
- 「今怒っている」「今不安だ」と言葉にして感情を可視化
ポイント
感情を押し殺すのではなく、安全に発散する方法を覚えることが目的です。
こうすることで、衝突や後悔を減らせます。
5. 継続的に振り返る(セルフモニタリング)
CBTは一度やって終わりではなく、少しずつ生活に定着させるプロセスです。
- 毎日「できたこと」を3つ書き出す
- 失敗したときは「次にどう工夫できるか」を考える
- 成功体験を積み重ねて「自分でもできる」という感覚(自己効力感)を育てる
ポイント
記録をつけると、自分の成長が「見える化」され、モチベーションが上がります。
一歩ずつ、自分に合った方法で
ADHDに効くCBTは、
- 困りごとを具体的に把握する
- 思考と行動を少しずつ変える練習をする
- 成功体験を積み重ねる
という流れで進めていきます。
続けることで「自分でもやれる」という感覚が育ち、日常生活が少しずつ整いやすくなります。
大切なのは「一気に変えようとしないこと」
たとえ小さな一歩でも、続ければ確実に変化が積み上がります。
ADHDにCBTを取り入れるときの注意点
- 専門家のサポートを受けるのが理想:臨床心理士や医師と一緒に取り組むと効果的
- 薬物療法と併用することも多い:必要に応じて併用することで、効果が高まる場合があります
- すぐに結果を求めすぎない:小さな変化を積み重ねる姿勢が大切です
家庭や職場でできるサポート
CBTは本人の努力だけでなく、周囲の理解と協力も欠かせません。
- 家族がスケジュール管理を一緒にする
- 職場でタスクを小分けにしてもらう
- ポジティブな声かけで成功体験を強化する
周囲の支えがあることで、CBTの効果はより高まります。
まとめ
ADHDは「不注意」「多動性」「衝動性」といった特性があり、日常生活で困難を感じやすい発達特性です。
認知行動療法(CBT)は、以下の方法によりADHDの困りごとを軽減する効果が期待できます。
- 思考のクセを修正する
- 行動を小さなステップに分ける
- 感情のコントロールを学ぶ
薬物療法だけに頼るのではなく、心理的なアプローチとしてCBTを取り入れることで、日常生活がよりスムーズになり、自己肯定感を高められる可能性につながります。
ADHDで悩んでいる方やその家族は、専門家と相談しながら、CBTという新しい選択肢を取り入れてみるのも良いかもしれません。自分に合った心地よいペースで、進めてみてくださいね。
認知行動療法について気になった方へ
認知行動療法(CBT)の手法については、以下のページで詳しく解説しています。

疾患別・認知行動療法(CBT)の代表的手法ガイド
※本記事は、ADHDに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療・助言を代替するものではありません。
症状や治療、支援については、必ず医師や専門家にご相談ください。
参考文献一覧
- 厚生労働省「ADHD(注意欠如・多動症)について」
- 日本認知療法学会「認知行動療法とは」
- American Psychiatric Association: ADHD Treatment Guidelines
- National Institute of Mental Health: Cognitive Behavioral Therapy

