「食べたいのに食べられない」「お腹がいっぱいなのに食べ続けてしまう」——食事にまつわる悩みは誰にでもありますが、日常生活に支障をきたすほどになると摂食障害の可能性があります。
摂食障害は、単なる「食生活の乱れ」ではありません。拒食症(神経性やせ症)や過食症(神経性過食症、過食性障害)などを含んでおり、食行動の異常や、体重・体型への強いこだわりによって、体と心の健康に少しずつ支障が出てしまう精神疾患のひとつです。
私たちは、食べることのつらさを通して、あなたの心が発している「SOS」を一緒に解き明かしていきたいと考えています。
この記事では、摂食障害の種類、症状、原因、治療法、家族や周囲ができるサポートまで、わかりやすく解説します。
💡 この記事のポイント
- 摂食障害は「心のSOS」が食行動に現れたもの: 決して、あなたの「わがまま」や「性格」のせいではありません。
- 拒食症・過食症・むちゃ食い症の3つのタイプ: それぞれに特徴的な症状がありますが、根底には「痩せたい」「太るのが怖い」という強い不安が隠れていることが多いです。
- 「心・体・栄養」の3方向からのケアが大切: 認知行動療法(CBT)などの心理療法に加え、体調管理や食事のサポートを組み合わせることが回復の鍵となります。
- 回復には周囲の「焦らないサポート」が必要: 無理に食べさせるのではなく、本人の苦しい気持ちに耳を傾け、安全な環境を作ることが大切です。
目次
摂食障害とは?
摂食障害は、食行動の異常や体重・体型への強いこだわりによって、健康や生活に支障が出る病気です。
厚生労働省は、摂食障害を「早期の発見と治療が重要な病気」と位置づけています。
摂食障害の主な種類と特徴
神経性やせ症(拒食症)
- 体重が標準より著しく低下しても、太ることへの強い恐怖がある
- 極端な食事制限、過剰な運動
- 無月経、体力低下、低体温、骨粗鬆症など身体症状が現れる
神経性過食症(過食症)
- 短時間に大量の食べ物を食べる「過食エピソード」
- 体重増加を防ぐための嘔吐、下剤乱用、絶食などの代償行動
- 自責感や自己嫌悪が強い
過食性障害(むちゃ食い症)
- 過食エピソードがあるが、嘔吐などの代償行動を伴わない
- 肥満や生活習慣病のリスクが高まる
- 食後の罪悪感や気分の落ち込みが強い
なぜ摂食障害になるの?
摂食障害は、どれか一つの理由で起こるわけではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。
- 心理的な要因: 「完璧でありたい」という願いや、自己評価の低さ、日々の強いストレスなど。
- 社会的な要因: SNSなどによる「痩せていることが美しい」という強い価値観の影響。
- 生物学的な要因: 遺伝的な体質や、脳内のホルモンバランスの働きの変化。
- 環境の要因: 家族関係の悩みや、過去のトラウマ、いじめなどの成育歴。
現代の治療では、「過去の何が原因だったか」を探すこと以上に、「なぜ今、この症状(悪循環)が続いているのか」というメカニズムを解き明かし、そこに対処していくことが重要視されています。
摂食障害の身体への影響
- 低体温、低血圧、脈拍異常
- 貧血、脱水、電解質異常
- 女性は無月経や不妊のリスク
- 歯の損傷(嘔吐による酸蝕)
- 心不全など命に関わる合併症
早期に治療を開始しないと、重篤な合併症を起こすことがあります。
診断と治療法
診断
診断 精神科・心療内科での問診、体重・BMIの測定、血液検査、心理検査などを組み合わせて診断します。身体の衰弱が激しい場合は、内科や救急科を受診し、連携して治療にあたることもあります。
治療法
- 心理療法:認知行動療法(CBTやその拡大版であるCBT-E)、モーズレイ式神経性やせ症治療(MANTRA)、家族療法、対人関係療法(IPT)など
- 栄養療法:適切な体重への回復と食事指導
- 薬物療法:抗うつ薬(SSRI)が過食症に有効なことも
- 入院治療:重度の低体重(急激な体重減少など)や生命の危険がある場合に行う
日常生活でできるサポート
本人への接し方
- 「食べなさい」と強制せず、気持ちを聴く
- 食事以外の話題で会話する時間を増やす
- 治療や通院をサポートする
- 急激な体重減少や体調悪化があるときは医療機関へ
家族や周囲が気をつけること
- 痩せや体型を話題にしない
- 責めたり比較しない
良かれと思って本人の「食事のルール」に合わせすぎると、かえって病気を長引かせてしまうことがあります。家族自身も相談窓口やカウンセリングを利用して、適切な関わり方を学びながら負担を軽減しましょう。
摂食障害からの回復に必要なこと
- 早期発見と適切な治療
- 病気を理解し、自分を責めない
- 周囲の支援と安全な環境
- 長期的な見守り(再発防止)
摂食障害は回復まで時間がかかることが多いですが、治療を続けることで健康を取り戻すことができます。
よくある質問(FAQ):摂食障害について
Q1:摂食障害は「わがまま」や「性格」のせいですか?
A1:いいえ、摂食障害は性格のせいではなく、さまざまな要因が重なって起こる「精神疾患」です。 真面目で完璧主義な方や、周囲に気を遣いすぎる方に多く見られる傾向がありますが、それは本人の努力不足ではありません。心と体が発しているSOSのサインとして捉え、自分を責めずに適切なサポートを受けることが大切です。
Q2:拒食症と過食症の違いは何ですか?
A2:主に「食べることを制限するか」「制御できずに食べてしまうか」という行動の違いがあります。
- 拒食症(神経性やせ症): 極端な食事制限や過度な運動を行い、著しく体重が減少しても「太るのが怖い」と感じるのが特徴です。
- 過食症(神経性過食症): 短時間に大量に食べる(むちゃ食い)ことが抑えられず、その後に吐き出したり下剤を使ったりする代償行動を伴うことが多いです。 どちらも根底には「体重や体型への強いこだわり」という共通の心理があります。
Q3:薬を飲めば摂食障害は治りますか?
A3:お薬だけで解決することは難しいですが、心の状態を整えるための大きな助けになります。 摂食障害そのものを直接治す特効薬はまだありませんが、伴いやすい不安、抑うつ、衝動性を抑えるために抗うつ薬(SSRIなど)が処方されることがあります。お薬で心の波を穏やかにした上で、認知行動療法(CBT)などのカウンセリングを組み合わせるのが、回復への一般的な近道です。
Q4:家族や周囲の人はどう接すればいいですか?
A4:無理に食べさせようとするのではなく、本人の「苦しい気持ち」に寄り添うことが第一歩です。 食事の内容や体重について細かく指摘すると、本人はさらに追い詰められてしまうことがあります。「あなたの味方だよ」という姿勢を伝え、本人が安心して今の辛さを話せる環境を作ることが、専門機関への受診や回復に繋がります。
Q5:回復までにはどれくらいの期間がかかりますか?
A5:個人差が非常に大きいですが、ゆっくりと数年単位で「心と体の折り合い」をつけていくケースが多いです。 昨日までできなかったことが今日できるようになる、という急激な変化ではなく、三歩進んで二歩下がるようなペースで進みます。「完治」を急ぐよりも、食生活や生活の質が少しずつ改善し、自分を認められる時間が増えていくことを目標にします。
まとめ:摂食障害は治療可能な病気
摂食障害は、単なる食事の問題ではなく、心と体が一生懸命に発している「SOS」です。最後に、この記事で大切にしてほしいポイントを振り返りましょう。
- 摂食障害は「心のSOS」が食行動に現れたもの: あなたの性格やわがままのせいではありません。自分を責める必要はないのです。
- タイプは違っても、根底にあるのは「生きづらさ」: 拒食、過食、むちゃ食い。症状は違っても、その奥には「太るのが怖い」「自分を認められない」という共通の苦しさが隠れていることがあります。
- 「心・体・栄養」の3つを同時にケアする: 認知行動療法(CBT)などの心理療法だけでなく、お薬の力や栄養面でのサポートを組み合わせることが、回復への安定した土台になります。
- 一人で抱え込まず、周囲の力を借りていい: 専門家や家族、同じ悩みを持つ仲間と繋がることが、回復への何よりの近道になります。
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参考文献一覧
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 「摂食障害」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-001.html - 日本摂食障害学会. 「摂食障害とは」
https://www.jsead.jp/ - American Psychiatric Association. (2022). Practice Guideline for the Treatment of Patients With Eating Disorders.
https://psychiatryonline.org/ - Treasure, J., et al. (2020). Eating disorders. Lancet, 395(10227), 899-911.
(摂食障害の国際的な総説論文) - 厚生労働省. 「こころの健康相談統一ダイヤル」
0570-064-556(全国どこからでも相談可能) - 野原伸展 ほか. 「神経性やせ症に対する認知行動療法 簡易マニュアル」 https://edcenter.ncnp.go.jp/edportal_pro/pdf/manual_an.pdf
(摂食障害の認知行動療法「CBT-E」の日本における実践マニュアル) - MANTRA研究ワーキンググループ(研究代表者:中里道子).
「モーズレイ式 神経性やせ症治療 MANTRA 治療の手引き」 https://edcenter.ncnp.go.jp/edportal_pro/pdf/manual_mantra.pdf - 日本医療研究開発機構(AMED)研究班(研究開発代表者:安藤哲也).
「精神科領域における 摂食障害の連携指針」 https://edcenter.ncnp.go.jp/pdf/research/amed/medical_cooperation_01.pdf - 日本医療研究開発機構(AMED)研究班(分担研究者:松永寿人).
「摂食障害に悩むあなたと サポートする方々への受診案内」
https://edcenter.ncnp.go.jp/pdf/research/amed/medical_cooperation_04.pdf

