「突然、息苦しくなり、心臓がドキドキする」 「このままどうにかなってしまうのでは、と怖くなる」――
パニック症(パニック障害)は、こうした予期しないパニック発作が繰り返し起こり、次第に「また発作が起きるかもしれない」という強い不安(予期不安)を抱えるようになる状態です 。
その結果、電車や人混みなど、特定の状況を避ける「広場恐怖」を伴うこともあり、日々の生活が制限されてしまうことも少なくありません 。こうした不安のループから抜け出すための方法として、科学的に効果が認められているのが認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)です 。
この記事では、パニック症に使われるCBTの基本や、不安に慣れていくための具体的なステップを解説します。
💡この記事のポイント:
- パニック症の仕組み: 予期しないパニック発作と、「また起きるかも」という強い不安(予期不安)が特徴 。
- CBT(認知行動療法)の役割: 不安の悪循環を理解し、考え方や行動を整えることで、過剰な恐怖を和らげていく 。
- 具体的な技法: 不安に少しずつ慣れる「曝露療法」や、極端な思い込みを修正する「認知再構成法」を組み合わせて進める 。
- 目指す姿: 発作をゼロにすることに執着せず、不安とうまく付き合いながら、自分らしい生活範囲を広げていく 。
目次
パニック症と認知行動療法(CBT)
CBTは、考え方のクセ(認知)と行動のバランスを整える心理療法です 。 パニック症のCBTでは、主に以下の3つのステップで進めていきます 。
- 仕組みを知る: 不安が不安を呼ぶ悪循環のメカニズムを理解します。
- 考え方を整える: 「この動悸は命に関わる」といった極端な思い込みを、現実的で安心できる考えに修正します。
- 少しずつ慣れる(曝露): 避けていた状況や身体感覚に、安全な範囲で少しずつ触れ、「大丈夫」という感覚を取り戻します。
不安が強まる「悪循環モデル」
パニック発作は、以下のようなループで強化されてしまいます 。
- 身体感覚: 小さな動悸や息苦しさを感じる。
- 破局的解釈: 「危ない!」「倒れるかも!」と最悪の事態を考える。
- 不安の増大: 恐怖心で交感神経がさらに刺激され、症状が悪化する。
- 回避と予期不安: 「もうあそこには行けない」と行動を制限し、不安が定着する。
CBTでは、このループのどこかに新しい選択肢を割り込ませ、循環を断ち切る練習をします 。
安心を育てる具体的なワーク
専門家のガイドのもと、以下のような技法を組み合わせて行います 。
① 認知再構成法(考え方の修正)
不安な時にパッと浮かぶ「自動思考」を整理します。
- 自動思考: 「息が苦しい=死んでしまうかもしれない」
- 新しい視点: 「これはパニック発作の症状。苦しいけれど命に別状はないし、数分でピークは過ぎる」
② 身体感覚への曝露(感覚曝露)
あえて軽い発作に似た感覚を体験し、脳に「これは怖くない」と学習させます 。
- 数秒間だけストローで呼吸する(息苦しさの再現)
- その場でくるくる回る(めまいの再現) ※これらは、安全が確保された環境で、少しずつ行うことが大切です。
③ 状況への曝露(状況曝露)
避けていた場所へ、スモールステップで挑戦します 。
- まずは駅の改札まで行ってみる
- 各駅停車に一駅だけ乗ってみる このように「できた」という自信を積み重ねていきます。
認知行動療法(CBT)はどう進む?基本の5ステップ
CBTは、専門家と一緒に自分の取扱説明書を作っていくようなプロセスです。一般的には以下のような流れで進みます。
- アセスメント(現状の整理): 今、どんな時に不安になり、どんな行動(回避など)をとっているのかを詳しく振り返ります。
- 心理教育: パニック症のメカニズムを学び、「なぜこの練習が必要なのか」を納得することから始めます。
- 目標設定: 「一人で電車に乗れるようになる」など、具体的で、今の自分にとって少しだけ頑張れば届きそうな目標を立てます。
- スキルの習得と実践: 呼吸法、考え方の修正、曝露療法(慣れる練習)などを、安全な環境で一つずつ試していきます。
- 振り返りと再発予防: 練習の結果を振り返り、うまくいった方法を定着させます。最後には、もし調子が崩れそうになった時の「お守り」プランを作ります。
パニック症におけるCBTの効果
CBTを受けることで、以下のような変化が期待できます。
- 「怖さ」の正体がわかる: 身体感覚への過度な恐怖が和らぎ、「これは危険なことではない」と脳が正しく判断できるようになります。
- 生活範囲が広がる: 避けていた場所へ行けるようになることで、自信が回復し、日常生活の質(QOL)が向上します。
- 再発しにくくなる: 一時的な症状の緩和だけでなく「不安との付き合い方(スキル)を身につけるため、治療が終わった後も長期的に安定しやすくなります。
CBTを成功させるための3つのコツ
焦らず、自分のペースで進めるために意識したいポイントです。
- 「スモールステップ」を徹底する: いきなり100点を目指さず、10点、20点と階段を登るように進めます。「今日は駅のベンチに座れた」といった小さな成功を全力で肯定しましょう。
- 「記録」をつける: その時の不安度や考えたことをメモに残すと、後から「あ、前より楽になっている」と客観的に自分の成長に気づけます。
- 専門家を信頼して頼る: 曝露療法などは一人で行うと不安が強くなりすぎることもあります。公認心理師などの専門家と二人三脚で進めることが、安心と成功への近道です。
知っておきたい注意点
CBTに取り組む際、大切にしてほしい心構えです。
- 即効性を求めすぎない: 筋トレと同じで、考え方や行動のクセを変えるには一定の時間がかかります。数回の実践で結果が出なくても、それは失敗ではありません。
- 体調が悪い時は無理をしない: 睡眠不足や疲れが溜まっている時は、不安を感じやすくなります。そんな日は無理な練習は休み、セルフケアを優先しましょう。
- お薬との併用を否定しない: 「自力で治さなきゃ」と薬を拒否する必要はありません。お薬で土台を安定させてからCBTに取り組むことで、より安全に、着実にステップアップできる場合があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 曝露療法は、無理やり怖いことをするのですか?
A1. いいえ、無理は禁物です。CBTでは不安階層表というリストを作り、自分が「これならできそう」と思える低いハードルから始めます。本人のペースを尊重しながら進めるのが基本です 。
Q2. お薬を飲みながらCBTを受けてもいいですか?
A2. はい、もちろんです。お薬で不安の波を穏やかにした状態でCBTに取り組むことで、より効率的に練習が進む場合もあります。医師と相談しながら併用を検討しましょう 。
Q3. 治療を始めれば、発作は完全になくなりますか?
A3. ゴールは発作をゼロにすることだけではありません。「もし発作が起きても、自分なりに対処できる」「発作があっても、やりたいことを諦めなくて済む」という状態を目指します。結果として、予期不安が減り、発作の頻度も和らいでいきます 。
まとめ:自分らしい生活を取り戻すために
パニック症のCBTは、不安を敵として排除するのではなく、「不安の正体を知り、付き合い方を身につける」ためのトレーニングです 。
一歩進んで、また戻る日があっても大丈夫。大切なのは、焦らずに自分のペースで「安心の範囲」を広げていくことです。ひとりで頑張りすぎず、専門家やサポートツールを頼りながら、一歩ずつ進んでいきましょう。
パニック症について気になった方へ

※本記事は、パニック症に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療・助言を代替するものではありません。
症状や治療、支援については、必ず医師や専門家にご相談ください。
参考文献一覧
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 「パニック障害」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-002.html - 日本認知療法・認知行動療法学会. 「パニック障害と認知行動療法」
https://www.jacbt.jp/ - Barlow, D. H. (2002). Anxiety and Its Disorders: The Nature and Treatment of Anxiety and Panic. Guilford Press.
- Craske, M. G., & Barlow, D. H. (2007). Mastery of Your Anxiety and Panic: Workbook (MAP-4). Oxford University Press.
- WHO. Mental disorders: Key facts.
https://www.who.int/

