「ADHD(注意欠如・多動症)」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
近年、子どもだけでなく大人のADHDも注目され、メディアや書籍でも取り上げられることが増えています。しかし「落ち着きがない人のこと?」「不注意が多いだけ?」と、正しい理解をされていないケースも少なくありません。
この記事では、ADHDの原因・症状・診断方法・治療法について、特別な知識がない方にもわかりやすく解説します。
目次
ADHDとは?
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder、注意欠如・多動症)は、発達障害のひとつです。
発達障害とは、生まれつきの脳の特性によって行動や認知に特徴が見られる状態を指します。
ADHDは子どものころに診断されることが多いですが、大人になってから気づく人も少なくありません。
ADHDの主な症状
ADHDの症状は、大きく3つの特徴に分けられます。
1. 不注意(集中が続かない)
- 細かい部分でミスが多い
- 約束や締め切りを忘れやすい
- 物をよくなくす
- 集中力が続かない
2. 多動(落ち着きがない)座っていられず、体を動かしてしまう
- 座っていられず、体を動かしてしまう
- おしゃべりが止まらない
- 頻繁に席を立つ
3. 衝動性(思いつきで行動してしまう)
- 順番を待てない
- 相手の話を遮る
- 深く考えずに発言・行動してしまう
子どもでは授業中の集中困難や忘れ物の多さ、大人では仕事のミスや人間関係のトラブルとして現れることがあります。
ADHDの原因
ADHDは「しつけの問題」や「性格の問題」ではありません。
科学的には、以下のような要因が関与すると考えられています。
1. 脳の働きの特性
→ 注意や行動をコントロールする脳の部分(前頭前野など)の機能に違いがある。
2. 神経伝達物質の不均衡
→ ドーパミンやノルアドレナリンの調整がうまくいかないことが関係。
3. 遺伝的要因
→ 家族にADHDの人がいると発症しやすい。
子どもと大人のADHD
- 学校の授業についていけない
- 友達とのトラブルが多い
- 宿題を忘れる、提出できない
大人のADHD
- 仕事の締切を守れない
- 会議で集中できない
- 家事や育児の段取りが苦手
- 人間関係がぎくしゃくしやすい
大人になると「多動」は落ち着くこともありますが、「不注意」や「衝動」は続くことが多いとされています。
ADHDの診断方法
ADHDの診断は、医師による総合的な評価で行われます。
1. 医療機関での相談
精神科・心療内科、発達障害専門外来などを受診し、問診票で「不注意」「多動」「衝動」の症状を確認します。
2. 問診・チェックリスト
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)に基づいたチェックリストを用いて評価します。
3. 行動観察と周囲からの情報
学校や職場、家族からの情報を参考に、複数の環境で症状が見られるかを確認します。
4. 知能検査の実施(必要に応じて)
ADHDそのものを診断するために必須ではありませんが、WAIS(成人用知能検査)やWISC(児童用知能検査)を行うことがあります。
知能検査を行う目的は次の通りです:
– 他の発達障害や学習障害との区別
– 強みと弱みの把握(ワーキングメモリや処理速度など)
– 学習や職場での支援を検討する材料
5. 最終診断
症状が6か月以上続き、日常生活に支障が出ている場合、ADHDと診断されます。また、不安症やうつ病などの併存症の有無もあわせて評価されます。
ADHDの治療法
ADHDは一度で完治する病気ではありませんが、適切な治療と支援によって生活の質を改善することができます。
薬物療法
- コンサータ(メチルフェニデート):集中力を高める
- ストラテラ(アトモキセチン):衝動や多動を抑える
- インチュニブ(グアンファシン):落ち着きをサポート
行動療法・認知行動療法(CBT)
- タスクを小さく分けて達成感を得る
- 衝動的な考え方を整理し、行動の工夫を学ぶ
環境調整
- スマホやアプリでタスク管理
- 物の置き場所を決めて忘れ物を減らす
- 周囲の理解を得て、役割分担をする
ADHDと併存しやすい症状
ADHDの人は、他の精神疾患や困難を併せ持つことも少なくありません。
- 不安障害
- うつ病
- 学習障害(LD)
- 睡眠障害
こうした併存症の有無も診断・治療の重要なポイントです。
ADHDのセルフケアと生活の工夫
日常生活をより過ごしやすくするために、以下の工夫が役立ちます。
- 予定はカレンダーやアプリで可視化
- ToDoリストでタスクを細分化
- 片づけは「置き場所を決める」習慣にする
- 十分な睡眠とバランスの良い食事
- 定期的な運動でストレスを軽減
ADHDを持つ人の強み
ADHDは困難を伴いますが、一方で強みや才能につながる特性もあります。
- 独創的な発想力
- 行動力がある
- 興味あることへの集中力(ハイパーフォーカス)
- 社交的でエネルギッシュ
正しく理解し、周囲がサポートすることで、ADHDの特性は大きな強みになります。
まとめ
ADHDは、不注意・多動・衝動性を特徴とする発達障害です。
原因は脳の働きや神経伝達物質、遺伝が関与しており、しつけや性格の問題ではありません。
治療には薬物療法や行動療法、環境調整があり、早期に対応することで生活を大きく改善できます。
また、ADHDの特性は弱点だけでなく強みにつながることもあります。
「忘れ物やミスが多い」「落ち着きがない」など気になる症状が続く場合は、一人で抱え込まずに専門医へ相談してみましょう。
参考文献一覧
- 厚生労働省. 「みんなのメンタルヘルス総合サイト ADHD」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/nation/info_05.html - 国立精神・神経医療研究センター. 「ADHD(注意欠如・多動症)」疾患ナビゲーション
https://www.ncnp.go.jp/nimh/clinical/adhd/ - American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5). 2013.
- 日本小児精神神経学会. 「注意欠如・多動症(ADHD)の診断・治療ガイドライン」
- Mayo Clinic. “ADHD (Attention-deficit/hyperactivity disorder) in children and adults.”
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/adhd/