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産後うつとは?——「周産期うつ」をやさしく解説(妊娠中〜産後の気分の落ち込み)

産後うつ(産後うつ病)は、出産後にあらわれる抑うつ状態の総称です。
近年は妊娠中から産後1年までの心の不調を含めて「周産期うつ」とも呼びます。日本では産後1か月時点で約1〜2割前後(目安:14%程度)の方にうつ症状が見られると報告されており、決して珍しいものではありません。
パートナーなど父親側にも周産期うつが起こり得ることが分かっています。

産後うつ/周産期うつってどんな状態?

産後うつは、出産を境に心身のバランスが崩れ、以下のような症状が続く状態です。妊娠中から出産後1年の時期を含めて周産期うつと呼び、支援の対象と考えられています(父親など同居家族にも発症しうる点が重要です)。代表的な症状は次のとおり。

  • 気分の落ち込み・涙もろさ・興味や喜びの喪失
  • 強い不安・いら立ち・自己否定感や罪悪感
  • 食欲や睡眠の乱れ(眠れない/眠り過ぎる)・疲労感
  • 集中力低下・決断困難
  • 赤ちゃんや自分の安全に関する**つらい考え(希死念慮など)**が浮かぶ

ポイント:産後うつは「性格」や「母性の不足」ではなく、誰にでも起こり得る医療的に扱うべき状態です。適切な支援・治療で回復が期待できます。

「マタニティブルーズ」との違い

出産後数日〜2週間ほど、ホルモン変動や環境の大きな変化で涙もろくなる・気分が揺れやすい。これがマタニティブルーズです。多くは10日ほどで自然に軽快します。一方で、症状が2週間以上続く/悪化する/生活に支障が出る場合は、産後うつを疑って早めの相談・受診を。

なぜ起こる?——主な要因とリスク

  • 身体的要因:急激なホルモン変動、分娩・授乳による負担、睡眠不足・栄養不足
  • 心理・社会的要因:育児や家事の負担集中、孤立、経済的不安、暴力(DV)やハラスメント、計画外の妊娠・出産、過度な「完璧さ」への期待
  • 既往歴:うつ病・双極性障害・不安症など過去のメンタル不調、家族に同様の既往がある場合
  • 妊娠・出産の経過:切迫早産、帝王切開、赤ちゃんのNICU入院等の医療的ストレス

リスクがあっても必ず発症するわけではありません。一方で、リスクがなくても発症することはあります。自分や家族を責めないことが大切です。

自己チェックと受診の目安

EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)

10項目の自己記入で、産後うつの可能性をスクリーニングする道具です。確定診断ではなく “受診・支援につなぐ目安”として使われます。

  • 国際的報告では12/13点がカットオフの一つとして用いられ、日本版では9点以上を目安にフォローにつなぐ運用もあります(自治体・場面により取り扱いは異なります)。

受診・相談のタイミング

  • 気分の落ち込みや不安が2週間以上続く/日常生活に支障
  • 眠れない・食べられない・何にも興味が持てない
  • 赤ちゃんのお世話がつらい/ケガをさせてしまいそうで不安
  • 自分や赤ちゃんがいない方がいいと思うことがある(至急受診)

まずは産婦人科やかかりつけ医、心療内科・精神科、自治体の保健センターへ相談を。夜間・休日や急を要するときは119へ。

どう治す?——治療と支援の選択肢

治療は有効で、状況に合わせて組み合わせます。

  • 心理療法:エビデンスのある認知行動療法(CBT)対人関係療法(IPT)など。セルフケアや問題解決、コミュニケーションの練習を通して回復を支えます。
  • 薬物療法:SSRIなど授乳や妊娠中でも選択できる可能性のある薬があります。効果と安全性、授乳との両立は必ず医師と個別に相談。
  • 生活・社会的支援:睡眠確保、家事・育児の分担・外部サービス、職場復帰の調整、ピアサポート(同じ経験をもつ人の交流)など。
  • 重症例:希死念慮や産褥精神病が疑われる場合は緊急対応・入院治療が検討されます。
    (治療選択の考え方は、英国NICEの周産期メンタルヘルス診療ガイドライン等でも整理されています。)

使える制度・地域のサポート

産後ケア事業(市区町村)

出産後1年以内の母子に宿泊・通所・訪問で、休息・授乳支援・育児相談・心身ケアなどを行う公的支援。利用料の減免制度がある自治体もあります。まずはお住まいの子育て世代包括支援センターや市区町村の母子保健窓口へ。

相談窓口

  • こころの健康相談統一ダイヤル0570-064-556(各地の公的相談につながります。対応時間は地域により異なります)
  • 保健センター/助産師外来/産婦人科:妊娠中から産後まで継続支援
  • 配偶者暴力相談支援センター:DVがある場合はまず安全確保を

家族・周囲にできること

  • 大丈夫?」より「何を手伝えばいい?」と具体的に申し出る
  • 睡眠の連続時間を確保できるよう、夜間のミルクやあやしを交代
  • 家事・育児の分担を見直す/外部サービスを検討
  • 「休んでいい」「頼っていい」という言葉がけを繰り返す
  • 受診・相談の同行、予約や移動の手配
  • 危険サイン(希死念慮、育児が全くできない等)を感じたらためらわず医療機関へ

セルフケアのヒント(できる範囲でOK)

  • 睡眠最優先:まとまった睡眠が難しい時期は、短時間の昼寝も戦略
  • 食事は“簡単で十分”:宅配・レトルト・冷凍を活用
  • 10分の外気浴/散歩で気分転換
  • 情報の断捨離:SNSの比較で落ち込むなら一時休止
  • 困りごとを言語化:メモに「今いちばん困っていること」を1つ書く→家族や支援者に共有
  • EPDSの自己チェックを定期的に(結果は医療者・支援者に見せる前提で活用)

よくある誤解と本当のこと

  • 誤解:「気合いで治る」「母性が足りない」
    本当:産後うつは治療・支援で改善が見込める医療課題。自責は禁物。
  • 誤解:「授乳中は薬が使えない」
    本当:状況により選択できる薬も。メリット・リスクを医師と個別に判断。
  • 誤解:「妊娠中の落ち込みは我慢すべき」
    本当:妊娠中(周産期)からうつは起こり得ます。早めの相談が予防につながります。

まとめ——あなたと赤ちゃんの安全が最優先

妊娠 気分が落ち込む」「出産後の落ち込みが続く」と感じたら、それは周産期うつのサインかもしれません。産婦人科・心療内科・精神科地域の産後ケア・保健センターに相談して、休む・頼る・治療するをセットで進めていきましょう。いま切迫した不安がある、自分や赤ちゃんを傷つけてしまいそうと感じるときは、119または医療機関へ至急連絡してください。相談は勇気ではなく“ケアの一部”です。

【参考】

  • 日本の周産期うつ有病割合(メタ解析):女性は産後1か月で約14%、父親側も一定割合で発症。精神神経学雑誌オンラインジャーナル
  • EPDSの位置づけとカットオフ:国際的には12/13点、日本版の運用では9点以上を目安にフォロー。厚生労働省fa.kyorin.co.jp
  • マタニティブルーズの期間と特徴:産後数日〜2週間、多くは10日ほどで軽快。日本産婦人科医会
  • 周産期メンタルヘルスの治療選択肢(心理療法・薬物療法の考え方):NICE CG192。NICE
  • 産後ケア事業(制度の概要・法定化等):こども家庭庁。CFA Japan
  • 相談窓口:こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)。厚生労働省

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。診断や治療の最終判断は医療機関で行われます。妊娠・授乳中の薬や治療の可否は、必ず主治医にご相談ください。

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